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【南充浩×青野睦 特別対談】ジーンズそのものには価値がない?

ジーンズという商品は今でも男女問わず多くの人が穿いています。ジーンズを売っている売り場もたくさんあります。しかし、ジーンズがものすごい注目を集めることはあまりありません。これはほかのファッション衣料も同じです。しかし、昔は「ジーンズ」というだけでものすごい注目を集めたことがありました。その当時は、銭湯からジーンズショップへ、ラーメン屋からジーンズショップへと変わる店があったほどでした。

今でも多くの人が愛用しているジーンズですが、その当時ほどの人を惹きつける力はなくなってしまったように思えます。ではどうして、ジーンズがそんな「パワー」を失ってしまったのでしょうか。

今回は、BMCジャーナル特別企画として、当社の社長である青野睦が、ジーンズに詳しいファッションライター南充浩氏とのジーンズについての対談を掲載します。

 

南充浩氏:ファッションライター

アパレル販売員、繊維ニュース、専門学校広報と多様な経歴を持つ異色のフリーライター。国内アパレル市場の見識が広く、業界を俯瞰した分析を得意とする。その鋭い考察を日々更新している自身の「繊維産業ブログ」は月間10万人以上が訪問するメディアに成長。歯に絹着せぬ業界の批評が人気で、大手アパレルの経営者層にもファンが多い。

 

総合テーマは「なぜジーンズはつまらなくなったのか?」です。

 

(司会)―まず、独立して「ブルーモンスタークロージング(以下BMC)」を立ち上げたいきさつを

 

青野:私は大学を卒業してエドウインという大手ジーンズブランドに就職しました。エドウインですべての基礎を叩き込んでいただきました。ファッション専門学校卒業生でもないのになぜか商品企画をずっと担当してきました。就職後すぐに子会社化したジーンズカジュアルショップのアメリカ屋で販売員研修を行い、その後、東北にあるエドウインの直営縫製工場で研修しました。さらにそのあと、ずっと以前からエドウインのジーンズの洗い加工を請け負っている国内最大手の洗い加工場、豊和で洗い加工の研修も受けました。そしてさらにそのあと、パターン(型紙)作成室に配属されてから、商品企画に転属されました。

工場から売り場、パターン作りと一通りの商品作りの基礎を叩き込んでいただきました。今、BMCの商品企画を自分でやっているのはこのときに基礎が作られたからです。

とはいえ、実はエドウインを僕は2回退職しているんです。(笑)

 

南:え?それは初耳です。いつ頃ですか?

 

青野:2008年頃に一度エドウインを退職しました。当時は自分が企画した商品も飛ぶように売れていましたし、当時の創業家社長や専務にもかわいがっていただいていたので、天狗になっていたんです。退職してみて、初めてエドウインの看板で仕事ができていたことがわかりました。一人ではほとんど何もできなかったですね。

そうこうしているうちに2011年頃、専務から「戻ってこい」と呼び戻されて、またエドウインにお世話になりました。

 

南:初めてお会いしたのが2015年の秋だったと記憶しているのですが、そのときに「もうすぐエドウイン退職します」とおっしゃっていたので「大丈夫かな?」と心配したことを覚えています。大手のジーンズメーカーから独立されて成功しておられる人って多くはないいし、自分も独立してから4年くらいは本当に生活が厳しかったので。(笑)だから、「独立します」っていう話を聞くと、ついつい「大丈夫なのかな?」と心配してしまいます。

 

―ところで、大手ジーンズメーカーが苦戦に転じた理由はなんだと思いますか?

 

南:いろいろと複合的な要因があるので、一概には言えませんが、「ジーンズ」という商品をメーカー自身が硬直化させてしまったことも大きな要因だと考えています。90年代半ばにビンテージジーンズブームが起きて、そこから「綿100%デニム生地が王道で、合繊混は邪道」とか「ずっしりとした重いデニム生地が王道」とか「凹凸感のある表面感のデニム生地の色落ちが最高」とかそういう考え方で固定化されてしまいました。

こうなるとこの考え方に沿った商品しか出てこなくなり、毎年同じ物を焼き直していることになります。同じようなズボンを何本も毎年買い足す人なんてそんなに多くいませんから、売れ行きが鈍るのは当然ではないかと思います。

 

青野:エドウイン在籍時、本当にジーンズは綿100%、特にメンズは綿100%の時代でしたが、そこにあえてニット素材のパンツや合繊混ジーンズ、ツーウェイストレッチパンツなんかを企画して、売り出すと大ヒットしました。2008年から始まったスキニージーンズブームでメンズにもストレッチデニム生地が標準化されましたが、結局はメンズだって快適性や機能性をマス層は求めていたわけです。

ジーンズファンにお叱りを受けるかもしれませんが、ジーンズという商品がつまらなくなったのは、リーバイスの「501」を神格化しすぎたためではないかと最近思うようになってきました。すべてのジーンズは501をコピーしているといっても言い過ぎではありません。ビンテージジーンズブームはそれが顕著で、いかに何十年前の501を再現するかを各メーカーが競っていたともいえます。

でもそうなると、リーバイスの501さえあればあとのブランドは要らないんじゃない?ということになってしまいます。買う人からすると、リーバイス501のコピーばかりでは何本もジーンズを買う必要はなくなってしまいますよね。

 

―そこで独自のブランドを作りたいと思うようになったのですか?

 

青野:ちょうど南さんと初めてお会いしたときには、もうエドウインを退職することを決めていました。企画として「面白い商品を作りたい」と思っていても、会社ですからやっぱり売れなくてはだめで、でもそれが行き過ぎると前年に実績のあった商品の焼き直しばかりになってしまってつまらなくなってしまいます。そこに疑問を感じ始めて2度目の退職をして、なけなしの50万円の資金を握りしめて自分のオリジナル商品を作りました。はっきり言って独立してすぐはまったくBMCの商品は売れなくて、いろんなブランドのOEM/ODMを請け負って生活しました。

 

南:BMCは今、どれくらいの規模になったんですか?

 

青野:7月末時点で、ジーンズカジュアル店が約60店舗、ワーキングウェア店が約60店舗、ホームセンターが約30店舗で合計約150店舗に卸売りできるようになりました。まだこれからも卸売り先は増やすつもりです。いくつかの大手チェーン店から声をかけていただくようになりました。

 

南:ジーンズというアイテムで独立して3年で150店舗への卸売りというのはなかなかスゴイですね。昔はジーンズが飛ぶように売れましたが、今、ジーンズはそんなに売りやすい商品ではありません。ビンテージジーンズブームのころにブイブイ言わしていた有名ブランドも軒並み売上高が大幅に縮小しているくらいです。

 

青野:カジュアル店との取引が思うように増えなかったので、発想を変えてワーキングウェア店を攻めたことが結果として良かったといえます。自分で面白い物を作りたいと思って独立したものの、衣料品ビジネスは「数を売ってナンボ」ですから、やっぱり数の力は重要だなと。そこで、ワーキングウェア店に飛び込んだら、意外に好評であっという間に数量がまとまったというわけです。

ジーンズは元々作業着で、今はファッション衣料になってしまっているわけですが、ファッションでありワークであるというのはジーンズの原点だと思うんです。ですからBMCはファッションからワーキングウェア店にも広げました。ファッションとワーキングに同一商品を同一価格で売っているのはうちのブランドくらいだと思いますよ。

ワーキングも業界全体として需要減に対する対策が求められていました。その対策の一つがカジュアル化・ファッション化でした。そこにBMCがはまったというわけで、本当に運がよかった。(笑)

 

南:メンズスーツ業界が団塊世代の定年退職によって、需要減に追い込まれ、10年くらい前から、カジュアル化・レディース強化・パターンオーダーの導入など、さまざまな施策を行っていますが、ワーキング業界も同じ状況だったんですね。

 

青野:団塊世代の大量定年というのはまったくワーキングも同じですね。ところがワーキング業界には新規参入者が少なく、新しいブランドがなかなか登場しません。そこにBMCが飛び込んだから、すぐに導入が決まってしまいました。本当にタイミングが良かったんです。

 

―どうしてワーキング業界には新規参入が少ないのですか?

 

青野:ワーキングユニフォームは、仕事で使う物ですから、いかに丈夫で安く作るかということが重要視されます。そのためには合繊メーカーや紡績とコラボして素材開発も必要となり、大量生産が求められます。小規模・零細ブランドが参入するには資金力の障壁が高すぎるのです。

 

南:なるほど。かつての肌着や靴下、スポーツウェアと似たような状態にあるんですね。しかし、今ではそれらにもポツポツと新規参入ブランドが増えてきていますから、いずれワーキング業界にも新規参入ブランドが増えるのではないでしょうかね。

 

青野:スポーツウェアが長年かけてファッション化してきました。アディダスやナイキがその例で、それにアシックスやデサントが続いています。ワーキング業界もいずれはスポーツウェア業界のようにファッション化するのではないかと見ています。実際、ワーキングウェア店で聞くと、プーマなどのブランドの安全靴は通常のワーキングメーカーの安全靴よりも高くても売れているそうですから、客単価をアップさせたいワーキングウェア店は今後、ますますカジュアルに力を入れ、カジュアルブランドを導入すると思います。

 

―ジーンズはどうなって行くと思われますか?

 

南:よく、ジーンズメーカーのジーンズが売れなくなったのはユニクロの安いジーンズが登場したからだといわれますが、そればかりではないと思っています。これまで「ファッション」としてジーンズメーカーのジーンズを買っていた中価格帯、高価格帯のお客も違うブランドを選ぶようになったからだと思います。中価格帯でいえば4900~6900円はローリーズファームやグローバルワークに取られているでしょうし、1万円を越える高価格帯はディーゼルやAPCなんていうブランドに奪われていると思います。

 

青野:ジーンズの価値を改めて構築しようというような声も聞こえてきますが、じっくり考えれば考えるほど「ジーンズ自体には価値がない」としか思えません。また爆弾発言でジーンズ業界の人から叩かれますかね?(笑)

終戦直後からバブルくらいまで、アメリカからジーンズというアイテムが輸入され、それが国内で行き渡るまでは「ジーンズという商品そのもの」に価値があったと思いますが、今では「ジーンズそのもの」には価値を感じている人はほとんどいないのではないかと思います。ジーンズそのものではなく、ジーンズをどのようなシーンに穿くのか、どういう服と組み合わせるのか、どういう快適な機能性があるのか、そのあたりに価値を見出しているのではないでしょうか。だから、ビンテージジーンズブームの延長線上のまま「〇〇綿を使ったナンタラ加工のジーンズだから価値がある」とか「日本の職人がナンタラしたデニム生地だから価値がある」なんていう売り方がお客に響かなくなっているのだと思います。

過去の成功体験が大きすぎて、製造加工業もジーンズメーカーもジーンズカジュアルショップも変われなくなっています。

 

南:ピーク時でいえば、エドウインやリーバイ・ストラウス・ジャパン、ビッグジョン、ボブソンなど大手10ブランドくらいで2000億円くらいの売上高がありましたし、ライトオンのピーク時売上高は1000億円でしたから、本当にジーンズという商品は単品アイテムとしてはとてつもなく成功した商品だといえます。

 

青野:ですから、メーカーも小売店もいまだに前年実績を踏襲した商品ばかり追い求めることになってしまっています。しかし、2010年以降の不振でようやく小売店もメーカーも変わりつつあります。小売店からは「従来型、画一的でないジーンズが欲しい」という要望があり、それでBMCが選ばれている部分があるといえます。やっぱり運がよかったんです。(笑)

これからもカジュアルとワークの両方を追求して、「機能+ファッション性+実用性」という商品をBMCは提案し続けたいと思いますので、よろしくお願いします。

 

―上手くまとまりましたね。(笑)

 

 

 

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