JOURNALジャーナル

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90年代以降のジーンズの歴史を振り返る(最終回) ~スキニージーンズブームとそれ以降~

さて、ジーンズの歴史を振り返るシリーズも随分と現在に近づいてきました。

2007年に高級プレミアムジーンズブームが終焉を迎え始めました。この2007年には正直なところ、繊維業界に身は置いていなかったのですが、それでも根が好きなものですから、繊維業界の知り合いから情報収集をしたり、売り場を見て回ったりしていました。

2007年になると、売り場やそこにいるお客からは、2005年・2006年の時のような熱狂を感じなくなり、外野から眺めていても「そろそろブームは終わる」と感じられました。

そして、2008年からジーンズブームにおいて最後にして最長となるスキニージーンズブームが到来します。

スキニージーンズは実に2008年頃から2015年頃まで7年間に渡って続きました。またこれまでのブームと異なる点は、2015年にブームが終了しても2021年現在も売り場にはまだ「定番」として残っており、着用者もそれなりに居続ける点です。

 

dior スキニージーンズ

ディオールが発端となった「スキニージーンズブーム」

スキニーというのは英語で「痩せた」という意味があり、その名の通り肌に貼りつくくらいに細いシルエットのジーンズです。このスキニージーンズが大々的に普及した要因の一つとして、ストレッチデニム素材の普及が挙げられるでしょう。

2000年頃からストレッチ素材はありましたが、主にツイルやカツラギに用いられることが多く、デニムに用いられるケースはあまり多くありませんでした。おまけにジーンズ業界では、ビンテージジーンズブーム以来「綿100%デニムが王道。複合素材のデニムは邪道」という考え方がこびりついており、デニム生地に複合素材を使用することを長らく嫌う文化がありました。

 

しかし、スキニージーンズのように細いシルエットを実現するためには、ストレッチ混にすることが不可欠です。

たしかに綿100%デニム生地のスキニージーンズでもマニアならば我慢して着用したでしょう。ですが、マス層はそんな我慢大会のようなマニアックな嗜好は持ち合わせていません。もし、ストレッチデニムが普及しなければ、綿100%のスキニージーンズはマニアックなニッチ商品として終わったのではないかと考えられます。

 

ちょうど、モード界も2003年のエディ・スリマンによる「ディオールオム」の登場以来、上下ともにピチピチのタイトシルエットが大ブームとなり、それが継続していましたから、ジーンズもピチピチのスキニーシルエットへ移行することは当然の流れだったのかもしれません。

そしてこの上下ともにタイトなシルエットは2003年から2015年頃まで、実に12年間に渡って、マストレンドとして君臨し続けたのです。

 

スキニーの流行によって形骸化した「ジーンズのこだわり」

このスキニージーンズブームでは大きな変化がありました。かつてのジーンズメーカーの存在感が急速に薄まってきたことです。プレミアムジーンズブームまでは、ジーンズメーカー独特の物作りが消費者からも重視されました。しかし、スキニージーンズになると、ジーンズメーカーがこれまで得意としてきた「こだわり」が評価されなくなります。

もう誰も「タテ落ち」とか「アタリ感」とか「ヒゲ加工」とか「凹凸感のあるデニム生地」なんてものを評価しなくなります。スキニーはいかに細くシルエットが美しいか、いかに自分の体型にあったブランドを見つけるか、ということが重視されるようになります。そのため、これまでジーンズメーカーが武器としていた点がまったく通用しなくなり、ジーンズメーカーの経営を一気に苦境に突き落としてしまうことになります。

ジーンズメーカーが得意としていた点が評価されないということは、そのノウハウを持たないブランドでもいくらでも参入しやすくなるということです。そのため、一気にブランド数が増えました。今まで聞いたこともないようなブランドまでがスキニージーンズを作って販売するようになります。

 

ジーンズメーカーの没落

そして、2010年以降、かつて大手と言われたジーンズメーカーが次々と経営破綻することになります。2012年にボブソンが経営破綻、2013年にビッグジョンが創業家から官民ファンドへ経営譲渡、同じく2013年には、この当時、日本最大手だったエドウインも経営破綻してしまいます。さらに2015年にはブルーウェイが倒産しました。

経営破綻こそしませんでしたが、リーバイ・ストラウス・ジャパンも売上高100億円を割り込み、タカヤ商事も売上高の大幅な縮小を余儀なくされてしまいました。

こうして、2015年のガウチョパンツブームが来るまで、無数のブランドがスキニージーンズを販売し、ファッションがスキニー一辺倒のまま過ぎていきました。

そしてその揺り戻しのワイドシルエット、ルーズシルエットブームが2015年から顕在化し、ガウチョパンツブームとなるのですが、もうこの時にはジーンズメーカーが出る幕はありませんでした。

 

そしてそれ以来、ジーンズメーカーどころか、ジーンズというアイテムそのものが注目されにくくなり、そのまま2021年を迎えています。いずれジーンズが再注目される時が来るのだろうと思いますが、それはかなり長い年月が過ぎた後のことではないかと思います。

 

ライター:南 充浩(みなみ みつひろ)

1970年生まれ。大学卒業後、量販店系衣料品販売チェーン店に入社、97年に繊維業界新聞記者となる。2003年退職後、Tシャツアパレルメーカーの広報、雑誌編集、大型展示会主催会社の営業、ファッション専門学校の広報を経て独立。現在、フリーランスの繊維業界ライター、広報アドバイザーなどを務める。 2010年秋から開始した「繊維業界ブログ」は現在、月間20万PVを集めるまでに読者数が増えた。2010年12月から産地生地販売会「テキスタイル・マルシェ」主催事務局。 日経ビジネスオンライン、東洋経済別冊、週刊エコノミスト、WWD、Senken-h(繊研新聞アッシュ)、モノ批評雑誌月刊monoqlo、などに寄稿 【オフィシヤルブログ( http://minamimitsuhiro.info/ )】

 

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